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【東京物語】
小津安二郎監督

笠智衆、原節子、杉村春子、東山千栄子出演

1953年製作

 監督は小津安二郎さん。黒澤明監督、溝口健二監督と並んで国際的に評価の高い監督さんです。この「東京物語」も名前はきっと聞いたことがある人が多いと思います。徹底した映画の作り方に定評がある監督さんです。家族関係をテーマにして、違う作品を撮るにもほぼ同じ役者さんを繰り返し起用し、役名も同じ名前を使うなど独特なこだわりを見せます。

 映画を観ていると何だかきっと違和感を感じると思いますが、カメラを低い位置で固定させて撮ったシーンをつなげるように撮影してあり、カメラはほぼ動きません。会話のシーンも不自然にカメラ目線で登場人物たちが話しています。それでもこちらに話しかけているように思わせない工夫がちゃんと凝らされているのです。セリフも不思議な感じがします。不自然に短く、何だったら棒読みに思えるようなセリフが多いような気がするのです。きっとそれは映像の撮り方同様、リズム感を重視しているからではないかなと思います。不思議な小津安二郎ワールド。後にも先にもきっと無二の監督さんではないでしょうか。一本は観ておきたいとお思いの方、この作品から是非。


【あらすじ】

 広島は尾道に住む夫婦、周吉と妻、とみには五人の子どもがありました。ある日、周吉ととみは長男の幸一と長女の志げを訪ねて東京に出ることにします。東京にはそれに戦死した次男の妻の紀子が住んでいました。東京に出て長男の幸一の家に滞在しますが、町医者となった幸一は忙しく観光に連れていく日にも急患が入り出かけてしまいます。長女の志げも美容院を開業しており忙しくなかなか両親の相手ができません。

 困ってお願いした紀子が仕事を休んでふたりを東京見物に連れて行ってもらっている間に幸一と志げは相談し、ふたりを2,3日熱海にやることにしますが、若者で騒がしい観光地に参ってしまった周吉ととみは疲れ切り、早々と引き上げてくる始末。予想外に早く帰ってきてしまうのですが志げの家ではその晩寄合があるというのでふたりはそれぞれ別の場所で一夜を過ごすことにします。周吉は昔の友人を訪ね、とみは次男の妻の紀子が住むアパートに身を寄せました。次男が死んで8年、紀子の部屋には次男の写真が飾ってありました。それを見てとみはこんなに長くあんたをひとりにしておくのは私たちも辛い、と紀子に声を掛けてあげます。紀子は微笑んで目を伏せるのでした。

 忙しい子どもたちにあまり相手にしてもらえないまま周吉ととみは尾道に帰ることにします。しかしその帰路の電車の中、とみが倒れてしまいます。途中下車して大阪に住む三男の家に少しばかり滞在し、ふたりは尾道に戻ります。しかし尾道に戻った途端、とみは倒れ危篤となってしまいます。父からのお礼の手紙と、速達でやってきた母とみの危篤の報せを受けて子どもたちは尾道に戻ってきます。



【みどころ】

 みどころは当時49歳で70歳近い父親の役をしている笠智衆さんと完璧に清純な未亡人を演じた原節子さん。笠智衆さんは32歳で初めて「老け役」を演じたそうですが、この作品でも晩年近いご老人にしか見えません。妻のとみが亡くなった後、ひとりになった部屋でぼんやりと佇む横顔にはなんとも胸が苦しくなるほどの枯れ具合を表現しています。

 原節子さんは家族の集まりでは血の繋がっていない次男のお嫁さん、紀子役です。幸一と志げと同じく東京で働くキャリアウーマンなのですが、幸せな家族がいるふたりとは違い彼女は未亡人でひとり住まい。上京した両親が訪ねてくれるのを家族の誰よりも喜び、義母とみの死を誰よりも悲しむ様子が伝わります。尾道に集まった義兄弟たちがそそくさと帰ってしまった後も紀子は尾道に残り、周吉と末っ子の京子としばらく生活を共にします。そして紀子が東京に帰る日、周吉はとみと同じく紀子の今後を案じ、良い人があればいつでもお嫁に行っていいんだよと言います。紀子は、周吉ととみ、それぞれ優しく言ってくれたことに後ろめたく感じていました。8年という歳月は紀子にも長く、戦死した夫のことを考えない日もあると話し始めます。そしてこのまま何も起こらず同じ日々が続くのが怖いという気持ちがあるとも涙ながらに心情を打ち明けるのです。周吉は家族ではない、いわば他人のあんたに一番よくしてもらったととみの遺品である時計を紀子に手渡します。健気な紀子が「わたくし、ずるいんです」と涙を流すシーンは「ずるくないよう」とこちらも涙ながらにテレビに向かって言ってしまうような感動のシーンです。


【この映画にまつわる個人的コラム】

 こう見ると血の繋がっている家族の冷たさが浮き出て見えるのですが、この映画はそう単純に作られているようには思えません。終盤に末っ子の京子が上の3兄妹が冷たくもさっさと帰ってしまったこと、号泣しながらもケロッと母の遺品をいくつかちゃっかり持って帰る姉のことを紀子に愚痴るシーンがあります。冷たいわと怒る京子に紀子は諭します。みんな大人になると自分の生活が一番になってくるのよ、と。「お義姉さんもそうなるの?」と訊く京子に「そうねぇ、なりたかないけど…、やっぱりそうなってくわよ」と素直に紀子は答えます。

 実の子であるがゆえ、親の死はきっと考えるし覚悟するのでしょう。ただ泣いてばかりでは立っても居られないという気持ちはわかるような気がします。母が倒れたとき、喪服も準備して持ってきた長女の志げに対して何も用意せずに駆けつけた紀子と京子。志げは夫の世話をやく妻であり自分の美容院を切り盛りする働く女性でもあります。仕事ができる女性なのです。親の死も志げなりに乗り越えていく姿勢なのかもしれません。それを思わせるのは、実際母の死に直面したとき、ひたすら派手に泣いてばかりだったのは長女の志げでした。それぞれの登場人物を丁寧に描く中で、最も際立って見えるのが家族の中で他人である原節子の存在です。でもそれはただ彼女だけが純粋だと見せているのではなく、家族というものの本当の姿を描くために必要な存在なのだと感じます。

 とはいえ、紀子の純粋さにいつも涙してしまう、尾道の風景が白黒の中でも美しい、情感溢れる素晴らしい作品です。年取るごとに胸に沁みます。。。


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