today's movie column … 【その街のこども】

【その街のこども】
井上剛監督
森山未來、佐藤江梨子出演
2010年製作

 監督はNHKディレクターで演出家の井上剛さん。阪神・淡路大震災の特番としてテレビドラマを製作したところ、非常に注目を集め、映画として劇場公開されたのが本作です。兵庫県神戸市灘区で被災した森山未來さんと、東灘区で被災した佐藤江梨子さんが起用され、実年齢の設定で15年前を振り返ります。ドキュメンタリーのようでありロードムービーのようでもある不思議な雰囲気の作品です。

【あらすじ】
 建設会社に勤める勇治は先輩の沢村と新幹線に乗っていました。広島への出張を前乗りして遊ぼうとしていましたが、車内で見掛けた長身でスタイルの良い後ろ姿美人につられるように新神戸駅で先輩を残して途中下車してしまいます。勇治は神戸市出身。久しぶりの地元。新幹線に残されてご立腹の沢村の命で勇治は後ろ姿美人に声を掛けます。彼女、美夏も神戸市出身で震災後15年目の式典に参加するため帰省したとのこと。勇治に誘われて入った居酒屋でそれぞれの被災の経験、それぞれの復興を話します。なかなか感じの悪い勇治の話に反発し合いながらも美夏は勇治と行動を共にすることになりました。まずは、三ノ宮から御影まで。ふたりは歩きながら過去を、現在を、未来を話します。


【みどころ】
 本作は2010年1月17日にテレビ放送されました。勇治と美夏は長い道のりの末に毎年1月17日、追悼のつどいが行われる三ノ宮の東遊園地に辿り着きます。放送も同日に行われたそうです。ふたりが居酒屋や東遊園地まで歩く道すがらにそれぞれの震災当時を振り返って話すのですが、勇治は震災後もたまたま三ノ宮に帰ってきたもののまだ受け入れられないものを抱えています。美夏のように失ったものを素直に直視できない。勇治にはまだ受け止めきれない理由がありました。追悼のつどいに参加することも拒むのですが、そんな勇治をハグして、人混みの中へ駆けていく美夏の後ろ姿を見送る勇治の目に思いを馳せてしまう、余韻あるラストシーンです。
 エンディングに流れるのは阿部芙蓉美さんが唄う「その街のこども」。1月の早朝、寒空に白く舞い上がる吐息のような歌声が印象的です。


【この映画にまつわる個人的コラム】
 この作品の脚本を担当しているのは渡辺あやさんという人なのですが、田辺聖子さんの小説を映画化した「ジョゼと虎と魚たち」の脚本を担当していて気になりました。大好きな映画です。2003年には朝の連続テレビ小説「カーネーション」の脚本も手掛けています。リアリティがありつつ、寂しいような暖かいような、ほんわかしみじみしたドラマ展開が魅力の作家さんだと思います。

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