【苦役列車】
山下敦弘監督
森山未來、前田敦子、高良健吾出演
2012年製作
監督は山下敦弘さん。「リンダ リンダ リンダ」や「天然コケッコー」などが代表作で本作にも出演している前田敦子さんは以降、同監督の「もらとりあむタマ子」で主役を演じています。
若者の目線で苦悩や喜びを丁寧に描く青春映画が多い監督さんですが、本作はおよそ爽やかとはひとことでは言い難い作品です。西村賢太さんの小説が原作で不器用な青年の青春をどす黒くどん底から書かれています。山下監督がなるたけ爽やかにサイドを固めるなかで森山未來さんがひたすらダークに大暴れしている感じです。その暴れっぷりは一見の価値あり。すごい森山未來さんが観れます。
【あらすじ】
北町貫多は19歳、中卒で日雇いの港湾労働で日銭を稼ぎ暮らしています。稼いだ金は酒と風俗に使い切るので部屋の賃料は常に滞納しており、大家さんの取り立ても慣れっこになってきていました。出勤は乗合バスに乗って仕事場に向かうのですが、ある日の出勤の朝、自分と同じ年ぐらいの青年、日下部に声を掛けられます。昼休憩に話すようになり、貫多に初めての友達という存在ができます。日下部は専門学生で田舎から出てきて学校に通いながら港湾労働でアルバイトをしていました。貫多と日下部は仕事後、一緒に飲みに行ったり風俗に連れ立ったりして仲を深めます。しかしなんせ初めての友達で貫多はどんなふうに振る舞えばいいのかわかりません。日下部の彼女を紹介され、友達の女の子を紹介してくれると言ってもらったのにマスコミ志望で意識高い系の日下部の彼女が貫多には鼻につき、持ち前の口汚さで罵詈雑言をぶつけて彼女を傷つけてしまいます。貫多には気になる女の子がいました。読書の好きな貫多の行きつけの古本屋で働いている大学生の女の子、康子でした。恥ずかしがって康子に近づくことができない貫多に代わって声をかけてあげたのは日下部でした。日下部のはからいで康子とも友達になることができ、三人で遊んだりできる仲にもなったにも関わらずやはり貫多は上手く接することができないのです。彼女を傷つけられたことで日下部に「貫多とは付き合うのを辞める」と言われてしまいます。貫多はせっかくできた友達も自分のせいで失ってしまい、失意の中康子にも乱暴に迫ってしまい、康子との友達関係もぶち壊してしまいます。
【みどころ】
主役の貫多を森山未來さんが演じています。貫多は風呂なしの6畳1間に住んでいる設定ですが、森山未來さんも実際に撮影中は風呂なし6畳1間に住んでいたそうです。粗野な暮らしぶりの貫多を表現するために毎日酒を飲み、体型も小太りな姿になって貫多を演じたそうです。役者魂ですね。貫多の毒気溢れるセリフをさらに毒々しく発する居酒屋のシーンは監督に「悪魔だね」と言わせたほどです。森山未來さんの怪演とも言える演技がまず第一のみどころです。貫多の片思いの相手、康子役に前田敦子さん。元アイドルでAKBのイメージは強いのですが、とても自然に演じていて昭和の時代の設定にも溶け込んでいたように思います。貫多の初めての友達、日下部を高良健吾さんが演じています。スタジャンや色あせたジーンズ、など昭和スタイルで野暮ったさも良い雰囲気でした。
そして貫多と同じ職場で勤める同僚・高橋をマキタスポーツさんが演じています。何かと熱く「夢を持て」と貫多に先輩風を吹かせる高橋ですが、事故を起こして歩けなくなってしまいます。内心馬鹿にしていた貫多ですが、ある日高橋が夢だと言っていた歌手としてテレビに出ているのを見て心を奪われます。貫多の父親は性犯罪で捕まったことがあり、そのせいで一家離散していました。貫多は自分の境遇を嘆き、自信も夢もなく世間に愚痴を吐き散らしながら生きてきました。せっかくできた友達も自分の気の使えなさに失ってしまい、不器用にしか振る舞えない自分の人生でやりたかったことについて考え始めます。小説を書くことでした。高橋が足を奪われてからも夢を叶えようとテレビの中で格好悪く歌う姿を今度は馬鹿にもせず受け止めました。全てを失った後、一心不乱に小説を書きなぐる貫多。20代も始まったばかりの貫多のどん底からの青春。ドレスコーズの「trash」がラストシーンを締めます。エンディングを迎えて走り出す貫多の姿は観ている人にもなにかやらなきゃと思わせてくれます。ぜひ見守ってください。
【この映画にまつわる個人的コラム】
原作となっている西村賢太さんの小説も何冊か読みました。私小説で西村賢太さんの身の上がほぼそのままこの映画の貫多のお話しとなっています。ひと癖もふた癖もある小説家さんで一触即発感が森山未來さんの演技でも表現されているような気がします。昭和の時代の泥臭い青春映画。好きです。
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