today's movie column … 【色即ぜねれいしょん】

【色即ぜねれいしょん】
田口トモロヲ監督
渡辺大知、峯田和伸、岸田繁、臼田あさ美、リリー・フランキー、堀ちえみ出演
2009年製作

  田口トモロヲ監督作第二弾。これもみうらじゅん氏の漫画を映画化しました。前監督作と同様、峯田和伸さんが出演していますが、主役はまたもミュージシャン。神戸出身のバンド、黒猫チェルシーのボーカル・渡辺大知さんが務めました。彼もまた芝居は初めてで2000人を超える候補者の中から主役に選ばれました。当時19歳の彼の、とても新鮮で面白い演技は観ていてほほえましく、気がつけば引き込まれてしまいます。

【あらすじ】
 京都のとある仏教系男子校に通う高校1年生の乾純は文科系男子。学校ではヤンキーや体育会系の男子が幅を効かせていて文科系の純たちには肩身が狭い中、伊部と池山という同じく文科系の友達と細々と過ごす日々を送っていました。ギターが趣味でボブ・ディランを愛し、ひそかに自宅で夜な夜な自作の曲を弾き語ります。そして通信空手で強い男を目指していますが、ヒッピーの家庭教師に「なんにもやってないやつより弱そうやなあ」と言われてしまうのでした。女子高に通う足立恭子に思いを寄せていますが何もできない自分に悶々とする日々です。ラジオ番組に送った投書が読まれたことをきっかけに思い切ってラブレターを送るのですがあっさり撃沈。伊部と池山に誘われて隠岐の島のユースホステルに行くことに決めます。雑誌で読んだ”フリーセックス”主義の女性との出会いに救いを求めて…。
【みどころ】
 トモロヲ監督、第一作目の「アイデン&ティティ」に続いて音楽が非常に大事な位置を占め、役者初挑戦のバンドマン・渡辺大知さんを始め、くるりの岸田繁さん、銀杏BOYZの峯田和伸さんがそれぞれの言葉で音楽を語るのがとても素敵です。くるりの岸田さんは純の家庭教師役なのですが、なぜかヒッピーで、純に勉強以外のことをたくさん教えてくれます。くるりとしたかわいらしい瞳で名言を放ち、奥手な純に火を付けます。意を決して文化祭に出ようとする純に前日の晩の会話がかわいいです。

純「みんな知らん曲は乗れへんて言うねん。」

ヒッピー「ほんなん、今売れてる歌かて、あれやで。最初は誰も知らへんかったんやで。」

純「そうやけど。」

ヒッピー「ぼんなあ、音楽ってなんやと思う?・・・音楽は武器や。通信空手よりもなあ、強い武器やで。」


 ヤンキーに苛められる文化系男子の純は、いつかヤンキーをこらしめることを夢見て通信空手と妄想に勤しみますが、全く強くもなれないし町でカツアゲに遭った時にもそのヤンキーに助けられる始末。けれどもユースホステルでの恋や友情、いろんな人に出会っていろんな人生を知った、ひと夏の思い出は純を少し大人にしました。思い切って出た文化祭で得意のギターをかき鳴らし、純はヤンキーに認められるのです。音楽という武器で文科系男子はヤンキーと渡り合い、音楽という共通言語で仲良くなっていくシーンはとても胸を打たれます。

 それからこの作品の魅力はなんといっても関西弁。みうらじゅん氏が生まれ育った京都が舞台なので、バリバリの関西弁。主役の渡辺大知は神戸生まれ、くるりの岸田さんも京都出身なので関西弁トークはとても自然ですんなり耳に入ってきます。純の両親役を堀ちえみさん、リリー・フランキーさんが演じていますが、このおふたりが非常に良いです。福岡出身のリリーさんも関西弁を練習したそうです。雰囲気ある関西弁をぜひ聞いてみてください。

 青春時代、男の子の苦悩や喜びをいっぱい詰めた瑞々しい作品です。思わずふふっとこそばゆい感じに笑ってしまうシーンはどんな人にでも1つはあると思います。



【この映画にまつわる個人的なコラム】

 バンド・黒猫チェルシーのボーカルである渡辺大知さんの役者デビューの作品で、この出演以降、バンド活動の傍ら、ドラマやCMに出るようになりました。バンドで奏でる音楽や好きな映画も若さの割には渋くてこだわりのありそうです。役者として、バンドマンとして、活躍中の渡辺さんにぜひ注目を。本作の中でうっぷんを溜め続けて吐き出す、文化祭でのギターパフォーマンスは爽快で、可愛い顔した渡辺大知さんの毒っけをよく表していて、さらにチャーミングです。

 そしてやっぱり峯田さん。峯田さんは隠岐の島ユースホステルの宿舎の従業員の「ヒゲゴジラ」役で、ユースに来た若者を導きます。過去に学生運動をしていた経験を持ち、熱い思いを燃焼させた大人がまだ過去を持たない若者たちに語りかけます。

「さよならだけが、人生でしょ」

 寺山修二の言葉をさみしそうにつぶやくシーンもありますが、純との別れの日、彼は叫びます。

「さよならだけの人生じゃ、つまらねえぞ。別れの後にはな、出会いがあるんだ。また会おう!」

 そして離れていく純たちを乗せた船に向けて、見事なダイブ。海の中から手を振るヒゲゴジラ。この熱さ、峯田さんにしかできない体を張ったメッセージは心にストレートに届きます。

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