【息もできない】
ヤン・イクチュン監督
ヤン・イクチュン、キム・コッピ出演
2008年製作
韓国のヤン・イクチュンという人が製作、主演、監督、脚本、編集の5役をこなしています。デビュー作として、低予算で撮り始めましたが制作中も資金集めに奔走し、自分の家をも売り払ってまで完成させたという彼の一世一代の出世作です。原題の「トンパリ」(똥파리)は「クソバエ」を意味する罵倒語だそうです。
主人公はキム・サンフンという借金取り立てを生業とする男。出所したばかりの父親がおり、サンフンの母親へのDVの最中、母親を庇った妹を死なせてしまった過去がありました。日々サンフンは溜めた鬱憤を、今や無抵抗となった父親へ暴力として浴びせかける毎日。
ある時、街角でサンフンの吐き出した唾がすれ違う女子高生ヨニにかかってしまいます。ヨニは勝ち気な女の子でチンピラ風情のサンフンにも動じず謝れと詰め寄ります。短気なサンフンはヨニの顔面を殴り失神させてしまうのですが、ヨニが目が覚めるまでのしばらくの間もサンフンはヨニのそばにいました。意識を取り戻したヨニは怒ってサンフンの連絡先を聞き出し、治療費を請求します。悪態を浴びせ合いながらも小気味良いやり取りは続き、治療費が屋台の飲み代になり、夜中の川べりで飲むビールになり。恋愛なのか寂しさからか、ふたりは互いの存在を気づけば必要としていました。
腹違いの姉が生んだ子ども、甥のヒョンインを溺愛するサンフンはヨニも加えて三人で楽しい時間さえ過ごすのです。取り立ての仕事からも足を洗うことにしたサンフンでしたが、社長のマンシクに決意を伝えたその日に事件は起こってしまいます。
実はヨニの父親も母親に暴力を振るっていました。その後母親を失い、働きもせずボケてしまった父親を抱えてヨニと弟のヨンジェは日銭を稼ぐ毎日。暴力の連鎖は弟ヨンジェの運命も狂わせ、それに大切な人の運命も狂わせてゆきます。親子関係の悲しい負の連鎖は断ち切れない。絶望的なストーリーながらもサンフンとヨニの、助けてと言いたくても口には出せないふたりが共有する、涙をこぼし合うシーンは救いを感じさせます。こういう瞬間が生きていて良かったなと思える時なんだろうなと思いました。感情がガンガンに伝わってくるとてもよい映画です。
【この映画にまつわる個人的なコラム】※読まなくても可。笑
ヤン・イクチュンは最近公開された、寺山修司の小説を原作とした「あゝ荒野」に菅田将暉との共演が話題になっています。監督もやってるとは思えないほどのチンピラっぷりで、俳優としても監督としても期待のひとです。ヤン・イクチュンもすごかったですが、個人的には女子高生ヨニ役のキム・コッピという人がとても良かったです。気丈なヨニがじわじわ泣く涙のシーンに胸が苦しくなりつぱなしでした。いやはや韓国映画、良い映画たくさんありますねえ。「あゝ荒野」も早く観なきゃです。
0コメント