today's movie column … 【AMOUR】

【愛、アムール】
ミヒャエル・ハネケ監督
ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、イザベル・ユペール出演
2012年製作

 監督のミヒャエル・ハネケ氏はオーストリアの映画監督であり脚本家です。本作は2009年「白いリボン」で受賞したカンヌ国際映画祭パルム・ドールの二度目の受賞となります。


【あらすじ】

 ひっそりと満たされた老後の生活を送るジョルジュとアンヌ夫妻。一人娘を育て上げ、自身も音楽家として活躍し後続する若者も育て上げた二人は長い結婚生活でまた二人きりの生活に戻ってきました。どれくらい続くのか分からない年老いた二人の生活は、妻アンヌの脳梗塞発病により新たな局面を迎えます。手術は上手くいかず、半身の麻痺を抱えて自宅に戻ってきたアンヌはもう二度と病院には戻らないと夫ジョルジュに伝えます。それからの日々、アンヌは悪化の一途を辿ります。ある日、ジョルジュが外出から帰宅すると開け放した窓際でアンヌが車椅子から落ちて座り込んでいるのを見つけました。「早かったのね」と言うアンナ。音楽家として誇り高く生きたアンヌ。ジョルジュは彼女を抱き上げ、車椅子に座らせて窓を閉じます。部屋に戻り向かい合うジョルジュとアンヌ。ふたりの死への覚悟はそれぞれに確実に忍び寄ります。


【みどころ】

 ミヒャエル・ハネケ監督はウィーン大学で哲学や心理学、演劇を学んだそうで監督作品にはひと癖もふた癖もあるようなものがあります。本作のシーンでは基本的に夫ジョルジュの目線で描かれるのですが、冒頭のピアノリサイタルを聴いているジョルジュたちのシーン。一度も舞台を見せず聴衆の様子が長回しで映し出されます。開演前、めいめい会話しながら席に着く客席を照明が落ち、静まり、曲が始まるまでじっと、本来観ている側であろう客席を映しています。これは映画を観ている私たちの想像力のデモンストレーションのようにも思えます。その後のシーンはほぼジョルジュとアンヌのアパルトマンの一室で続くふたりのただただ日常生活です。そこでもこの観ている側の見えない部分を主に音、その音を聞いて観ている私たちが持つであろう予測を利用して作り上げられたシーンで老夫婦の生活、妻アンヌが発病してからは介護の生活を丁寧に描きます。そこで私たちは感情移入してふたりの生活を追うことになります。

 本当の愛ってなんなのか。相手のことを思う時、自分の感情や欲望ではなく、どういうことが「相手のため」なのか。観ているうちにじわじわと問われていくように思えます。そういうことに思いを馳せつつふたりが辿りつくラストを見守ると言葉も出せず、しばし無口になってしまいます。

 ストレートな感動や幻想はけして描かない超シニカルなミヒャエル・ハネケ監督。本作は一周回って超リアル、現実世界で起こり得る人間の諸問題の中での愛でした。それはもう真正面から突き付けられる老いと病気、大人になった子どもとの関係などなど、逃げることのできないことだらけです。その直面せざるを得ない、若い時には考えようともしないことを突き付けてくること自体もハネケの皮肉にも感じます。

 それでも観終わった後、なぜか重々しく鬱屈する感じがしなかったのは、シンプルにこの夫婦のお互いを想う愛情が一貫してすっと物語を通しているからだと思います。



【この映画にまつわる個人的なコラム】

 ネタバレするのであらすじで触れられないことの方が多い、ハネケの映画です。ミヒャエル・ハネケという人は非常に精密で伏線を多用し、皮肉に満ちた映画を撮る監督さんです。ファンはきっとこの映画のどこにその仕掛けがあるのか、警戒しながら観たに違いありません。私もこわごわ観ましたがあまりに直球なので驚きました。シーンのひとつひとつはとても素晴らしかった。おぉ??と驚く奇抜な映画を観たいなら、ゲーム感覚では「ファニー・ゲーム」、独身女性なら「ピアニスト」辺りがおススメです。


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